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医療・介護支援サービス

 

海外における医療・介護支援サービスの動向

1.海外の医療・介護支援系SNSの動向

2.海外の遠隔診断・見守りサービスの動向

3.日米比較と考察 

Enurgi―老人、障害者のケアを助けるサービス

介護のソーシャルネットワークEnurgiをUnivita Healthが買収

インターネット経由でおばあちゃんを見守る

 海外における医療・介護支援サービスの動向 (2009.2.)

1. 海外の医療・介護支援系SNSの動向

 昨今、日本のみならず、海外の先進諸国においても高齢化問題が進行するなかで、ITを活用した医療・介護支援サービスが海外でも登場している。本稿では、医療・介護支援系SNS遠隔診断・見守りサービスという2つを順に紹介した上で、日米の比較や日本での展開可能性等について考察を加えてみたい。

 まず最初に取り上げるのは、2007年にオープンした「Enurgi」という介護仲介SNSである。同サイトは、全米全州の公的記録から収集した介護の有資格者150万人のデータベースを構築しており、これら介護の有資格者と、介護が必要な高齢者や障害者との間の仲介を実現している。

 同サイトの利用プロセスは以下のようになっている。まず介護士の側は、本人確認できる写真付き証明書のスキャン画像を同サイトに提出し、マッチングのために詳細なプロフィールを入力する(連絡先、対応できる症例、使用言語、保有資格、経験年数、信仰する宗教、特技等)。介護士はスケジュール管理をサイト上で行うことも可能で、介護サービス利用者の側はすでに予約が入っている日時を確認することができる。

 一方、介護サービスを受ける側は、自分の症状の具体的な状態、どのような介護を必要としているか等をプロフィール欄に登録。介護を必要とする日付をカレンダーに入力することも可能となっており、これらの条件を通じて「Enurgi」がマッチングを行う仕組みとなっている。また、一度介護サービスを受けた後には、利用者の側がレビューを行うことも可能である(図1)。

 さらに同サイトのビジネスモデルは、仲介手数料を徴収するというものになっているが、ほとんどの仲介作業はオンライン上で自動的に行われるため、従来の介護仲介業に比べて低く抑えられているという。SNS、オンライン・カレンダー、レビュー等、既存のウェブサービスの仕組みをたくみに活用した同サイトは、優れた成功事例といってよいだろう

 こうした介護仲介系SNSが登場している一方、患者同士で病気に関する知識や経過といった情報を共有するためのSNSも登場している。「PatientsLikeMe」は2004年から提供が開始されている難病患者向けのSNSで、身近になかなか病気に関する情報を共有できる相手がいない、自分の病気の経過が他人と比べてどうなっているのか知りたい、といった患者のニーズを満たすものとなっている。患者は日ごろの体調や病気の経過を書き込み合うことで、同じ病気に患う人々の状態を共有するができる。また同サイトでは、患者が更新するデータを定量的に分析し、製薬会社や研究機関、NPO 等に販売することで収益を得ているという。


2. 海外の遠隔診断・見守りサービスの動向

 次に、海外の遠隔診断・見守りサービスの事例として、2000年代前半から提供されているHealthHero Network社の「HealthBuddy」を紹介したい。これは液晶画面と簡易なボタンだけで構成されたシンプルな端末機器を操作することで、医師の健康診断を遠隔で受けられるというもので、患者は毎日届けられる生活習慣全般の質問に答えることで、毎日の健康状態を医師に電話回線経由で送信することができる(質問内容は医師の側でカスタマイズが可能)。同サービスは現在でも提供されており、2008年には、第三世代の端末の出荷を開始している。ただしその新機能は、イーサネット通信対応、液晶性能の向上、赤外線通信機能の搭載といった基本的なものに留まっており、サービスの基本的な部分に大きな変更は見られないようだ。



 次に、近年の遠隔見守りサービスの近年の動向として、4HomeMedia社が提供する健康モニタリングサービスHome HealthPoint」を取り上げる。同サービスは、行動探知機ウェブカメラ非常用ペンダント等を提供し、これらを通じて遠隔見守りを実現するというものとなっている。行動探知機は、ベッドルーム、バスルーム、リビング、玄関等に設置され、追加オプションで冷蔵庫・ドア・専用薬箱等に専用のセンサを取り付けることも可能。さらに同サービスでは、健康状態を体重計、血圧計、ブドウ糖メーター等の機器で測定し、専用のウェブページでモニタリングを行うこともできるという。

 また同社は、米Echelon社と共同で、ホームオートメーション技術の開発にも取り組んでおり、2007年のCES(インターナショナル・コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)ではホームシステム部門の「ベストオブイノベーションズ賞」を受賞している。受賞製品は4HomeMedia社のコントロールパネルを通じて、自宅内の家電製品や住居施設を操作するというもので、通信には宅内の既存の電線を利用するため、新たな配線の増設等は必要ないとされている。

3. 日米比較と考察

 以上、本稿では、米国の医療・介護支援系SNSと遠隔診断・見守りサービスの動向について紹介を行ってきた。最後に本稿では、それぞれのサービスの日本での展開可能性について検討を行ってみたい。

まずSNSについてだが、日本においても、医療・健康関連のSNSはすでにいくつか存在しており、女性向けの医療・健康SNSジネコ」、医者・患者向けのSNSMedWebLive」、特定の病気ごとにその患者の闘病記を検索・閲覧することができるTOBYO」等がある。また、介護・福祉SNSを称するへるぱ!」というサービスも存在しているが、その実態は「介護・福祉に関心のある人々向けのSNS」に留まっており、本稿で紹介した「Enugri」のように、介護サービスのマッチングを実現するためのSNS とはなっていない。おそらく米国において介護支援SNSが先行している背景として、米国ではフリーランスの介護福祉士という存在自体が多いために、SNS等のマッチングサービスへのニーズが高い(逆に日本ではフリーランスの介護士が少なく、マッチングサービスへのニーズが低い)のではないかと考えられる。

 また日米両国では、医療保険の仕組みが大きく異なっている点も確認しておく必要があるだろう。広く知られているとおり、日本では国が健康保険制度を支えているのに対し、米国では基本的に民間によって医療保険制度がまかなわれているという違いがある。そのため、米国の医療業界においては日本に比べて市場原理が強く働いており、それゆえ、情報技術やウェブサービスの医療への導入も日本よりも遥かに進みやすい状況にある。たとえば、今回紹介した患者SNSの「PatientsLikeMe」のビジネスモデルは、SNS上に蓄積された患者のデータを各種医療機関に販売するというものだが、このような収益モデルは日本ではなかなか成立しにくいものと思われる。一方、遠隔診断・見守りサービスについては、高齢化がかねてから進んできた日本のほうが先行している側面も見られ、特に国内のメーカー系企業の事業展開が目立っている。

 まず、高齢者を対象とした遠隔見守りサービスには、現在、実に多種多様なものが展開されている。たとえば、日本の高齢者がお茶をよく飲むことに着目し、電気ポッドの利用状況を通じて安否確認を実現するサービスや、水道・ガスの利用料を計測するもの介護ベッドの利用状況を通知するもの携帯電話の充電状況を通知するもの等、様々なタイプの見守りサービスが存在している。また「Home HealthPoint」のように、部屋にセンサを設置することで見守りを実現するサービスも複数存在している。おそらく今後は、こうした各種見守りサービスを統合的に取り扱うためのプラットフォーム化に向けた動きが注目を集めるのではないだろうか

 また遠隔診断系のサービスとして、医療機器メーカーのタニタは、体重計・歩数計・血圧計等の測定データを遠隔送信し、自動的にウェブ上で閲覧可能にするサービスからだカルテ」を提供。サービス利用料は月額数百円から千数百円程度となっており、2008年6月時点で会員数は1万5千を突破、今後も順調に会員を伸ばしていくかどうかが注目される。

 同サービスでは、ただデータを自動的に記録するだけではなく、記録・蓄積されたデータをもとに健康診断を提供する機能や、事前に設定した体重等の値が超えてしまった場合、自動的にメールで注意を喚起するアラート機能等が提供されている。日本では2008年から、40歳以上の医療保険加入者を対象にした「特定健診・特定保健指導」(通称、メタボ健診)が義務化されたことから、健診対象者が急激に拡大し、保健所・保健師の負担も増大したため、効率的に健康診断や予防医療を実施するサービスへのニーズが高まっており、今後もこうした遠隔診断系サービスの動向に着目する必要があるといえそうだ。

表1. 医療・介護系ウェブサービスの日米比較


【表1の内容のディジタル化】

(1)医療・介護支援系SNS

 米国:

  「Enurgi」

   - 介護仲介系SNS。介護士と介護利用者のマッチングが行われる

  「PatientsLikeMe」

   - 難病患者向け情報共有SNS。

 日本:

  「ジネコ」

   - 女性向けの医療・健康SNS。

  「MedWebLive」

   - 医者・患者向けのSNS。

  「TOBYO」

   - 特定の病気ごとにその患者の闘病記を検索・閲覧することができる。

  「へるぱ!」

  - 介護・福祉SNS」。ただし米国「Enurgi」のようなマッチング機能の提供はない。

比較考察:

・米国では医療保険制度が民間中心で運営されており、市場原理が強く働くため医療関連ウェブサービスの導入が進みやすい(ICT導入によるコストダウンやマーケティング支援等、ウェブサービス側のビジネスモデルが立てやすい)。

・フリーランスの介護士が日本では少なく、「Enurgi」のようなマッチングサービスのニーズは少ないと考えられる。

(2)遠隔検診・見守りサービス

 米国:

  「HealthBuddy」

   - 専用機器に送られてくる医師からの質問に、ボタン回答するタイプの遠隔健康診断サービス。

  「Home HealthPoint」

   - 遠隔見守り・介護支援サービス。行動探知機やセンサーを住居に設置し、遠隔見守りを実現。体重・血圧等のデータも自動取得し管理することで、健康状態のモニタリングも可能。

 日本:

  「からだカルテ」

   - 健康計測機器とウェブとを連携させた有料会員制の健康管理サービス。遠隔健康診断やアラート機能等が充実。

  「高齢者見守りサービス」

   - 多数存在のため、方式のみ列挙。電気ポッドや水道・ガスの利用状況、携帯電話の充電状況、介護支援ベッドの利用状況、住居へのセンサ設置型等、多種多様なサービスが提供されている。

比較考察:

・高齢化の進む日本では、見守りサービスの多様化が先行。多様化するサービスを一元的・統合的に扱うためのプラットフォーム技術の登場が待たれる。

・日本特殊の事情として、通称「メタボ検診」の開始にともない、遠隔診断へのニーズは高い。

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Enurgi―老人、障害者のケアを助けるサービス  (2007.11.1)

Enurgiという新しい会社は、SNSからヒントを得て、介護の専門家と介護の受け手を結びつけ、ケアに関するやり取りを助けるサービスをオンラインで行なうネットワークを作っている。

このサイトの目的は、老人や障害者が適当な介護専門家を見つける(あるいは逆に介護専門家が自分の特技を生かす)ことが非常に難しい現状を改善しようというもの。Enurgiは介護を提供する側、受ける側、双方に役立つツールとなるよう考えられているので、この両面を見ていく必要がある。

Enurgiはアメリカの全州の公的記録から150万人の介護の各種有資格者のデータベースを構築しており、 介護の専門家は、自分がその一人であることを証明(免許のスキャン画像の添付が必要)したうえでサイトに登録できる。登録された後、専門家は特技、職歴、資格を認定した団体、連絡先などのプロフィール情報を入力する。すでに介護を提供している相手がいる場合は、予約が入っている日時もオンライン・カレンダーに入力することができる。近く、専門家ユーザーはLexisNexisデータベースを利用して自分自身の〔処分歴、裁判歴などの〕背景情報を検索、プロフィールに加えることができるようになる。プロフィールが完成した後、専門家は自分の特技を必要としている受け手をEnurgiのユーザーデータベースから検索する。

一方、介護サービスを必要している側(本人に加えて家族など保護責任者も含む)は、 医学的状況、生活の状況、現在の介護状況、どのようなケアを必要としているか、などを記入してデータベースに登録を行なう。オンライン・カレンダーに介護を必要とする日時の登録を行なうこともできるが、それは後にして、ここでただちに、地域に居住していて必要とする技能を有する専門家がEnurgiに登録されているか検索を行なうほうが普通だろう。

専門家ユーザーと介護を受けるユーザーはEnurgiサイトを通じてメッセージを交換して関係を築くことができる。Enurgiはこれらのメッセージをすべて保管し、介護サービスの提供スケジュールをオンライン・カレンダーで管理し、さらに報酬の支払い(PayPalサービスを利用して)仲介する。介護を受けるユーザーは、専門家に対する他のユーザーの参考となるようレビューを投稿することができる。Enurgiの有用な機能のひとつに、介護を受けるユーザーが自分の加入している保険をベースにして自己負担金額を計算するツールがある。専門家向けには介護業務を行なうに当たっての契約書等の作成を助けるツールが用意されている。

Enurgiは現在のところまだビジネスモデルを決定していないが、サイトを通じて行なわれる支払いからコミッションを得るモデルが検討されている。(ただし1月までは無料)

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介護のソーシャルネットワークEnurgiをUnivita Healthが買収  (2009.2.3)

介護者と患者を結びつけるソーシャルネットワークEnurgiが、Univita Healthに買収される。こちらは訪問介護などを通じて老人の自律生活を支援するヘルスケアサービスのプラットホームだ。買収額は、公開されていない。

Enurgiの最大の魅力は。介護者150万人のデータベースと、介護者と被護者を結ぶ完成度の高いソーシャルネットワークだ。Univitaはほぼ確実に、ソーシャルネットワークをサービスのメニューに加えて、高齢者が自宅でより快適に老後を過ごせるようにするだろう。

Univitaは、独立高齢者(自宅で暮らす高齢者)のためのワンストップショップサービスを、買収や合併によって充実させてきた。同社はサンフランシスコのプライベート・エクイティGenstar Capitalが出資者で、最近はミネソタのLong Term Care Groupと合併した。後者は国の長期介護保険サービスを扱って、保険金の請求を処理している

本誌が前にEnurgiを記事にしたのは、2007年のロンチ時だ。Enurgiは介護者と患者がお互いを見つける作業を楽にしただけでなく、両社の間の支払事務についても、PayPalを通じて便宜を提供している。

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インターネット経由でおばあちゃんを見守る (2008.1.8)

今週CESでは何百もの新製品がローンチするだろうが、私の目に止まったものは、液晶画面にもモバイル広告プラットフォームにもまるで関係がない。カリフォルニアのSunnyvale発のスタートアップ、4HomeMediaは、ブロードバンドを利用した健康モニタリングサービス、Home HealthPointを発表した。このサービスは、高齢者の自宅での行動を、家族や介護する人がモニターし(ブロードバンドモデムと家に置かれたセンサーを繋ぐボックス経由)、何かあったらアラームで知らされるというものだ。プレスリリースには以下のように書かれている。

お年寄がふだん生活する場に受動式の監視ネットワークを設置し、家族や専門の介護者が専用ウェブページにログインすると、対象のお年寄の体調データの履歴や、リアルタイムの最新状況、健康状態の予備警告を見ることができます。

サービスでおすすめのスターターキットには、Home HealthPoint、行動探知機3台、非常用ペンダントが含まれています。行動探知機は、専門家が設置する際に、考慮のうえベッドルーム、バスルームの入口、リビングルームやロビーなど主な出入りのある場所に置かれます。追加の行動探知機や、冷蔵庫やドアや専用薬箱などにつけるセンサー機器や、IPカメラを活用して、家庭内で取得された監視データを補完することもできます。

おばあちゃん用に、デジタル体重計や手首式血圧計やブドウ糖メーターなどを繋ぐこともできる。同社では、このサービスをケーブル会社や電話会社などのブロードバンドプロバイダーを通じて、月額$30~$100の追加料金で販売することを考えている。これは、お年寄りを年間7万2000ドルの介護施設に移すのと比べれば破格だ。

たしかにそうだろう。おばあちゃんに非常用ペンダントを付けて、行動探知機をセットすれば、介護施設に入れる時期を3~5年延ばすことができる。電話もかけずにおばあちゃんの様子が知りたいなら、ウェブカムで見ればいい。

はたしてこれが、文明の進歩といえるのか退歩なのか私にはわからない。こういうものがあればお年寄りのヘルスケアが改善されるのはまちがいない。多くの高齢者がひとりで自宅に暮らしているので、早期の警告システム(毎日ちゃんと食べているのか、薬は飲んでいるか、一日中ベッドにいたのか)が、実際に命を救うことができるかもしれない。

しかし、老いた両親に異常がないかをチェックするのは、家の火災報知機が鳴ったり、明かりを消し忘れていないかをチェックするのとは訳がちがう。(4HomeMediaは、同じ技術によるホームオートメーションとリモートメディア管理システムも提供している)。ことヘルスケアとなると、リモートモニタリングにどこまで頼っていいものか限界がある。何もしないよりもいいには違いないが、この結果、誤った安心感のようなものを与えたり、お年寄りが今よりもかえって孤独を感じてしまうのではないだろうかと心配になる。